第23回 カユミのメカニズムについて教えて下さい。

質問
 技術理論の教科書を見ますと、「痛覚神経に一定以内の刺激が加わると、それがカユミという感覚を引き起こす」とあり、保健の教科書では「かゆみ点というものがあり、かゆみ点に機械的、物理的、科学的刺激が加わることによってカユミが起こる」という記述がありますがどちらが正しいのでしょうか。
(愛知県 T.S子 )

回答
 「痛覚神経が弱く刺激されることでカユミが起こる」と言うのも、「かゆみ点に刺激が加わることでカユミが起こる。」という記述も、どちらも「一説」であって、 まだはっきりとは分かっていないのが現状 で、他にも「カユミと痛みは、感覚受容体と神経伝達路を共有しており、神経興奮の空間的時間的パターンの差がカユミの感じ方を決定している」というような説もあります。
 カユミは痛みを弱くしたような時に発生する感覚と説明されていますが、痛みとカユミが同時に起こるような「痛ガユイ」というケースもあることから、独立した感覚なのではないかとも言われるようになり、カユミを感じる仕組みについての神経生理学的な研究も進み、京都大学の宮地良樹教授によれば、既に、カユミを感じる神経を特定できた動物もあると発表しています。しかし、人ではまだで、はっきりとした受容体を特定することはできておらず、結局のところ、カユミのメカニズムはまだはっきりしていないというのが現状なのです。
 外界と接するところだけにカユミの感覚・神経があり、皮膚、鼻の中、耳の中などではカユミを感じますが、外界と接触していない心臓や胃や腸などにはカユミを起こす感覚・神経は無いため、かゆくはなりません。
  覚のある所ではカユミを感じますが、痛覚のない所ではカユミは感じません し、痛みを感じる場所に弱い刺激を与えるとカユミを感じることから、痛みの感覚に類似していることが言われています。しかし、痛みとは違う感覚であることは、痛みに対しては反射的に痛覚の原因となる刺激を取り除くような反応や、痛みから逃げる反応を示し、カユミに対しては掻いたりひっ引っ掻いたりする反応を示すことから、別のもののようにも考えられています。
 皮膚にそっと髪の毛が触れるぐらいに軽く触れると、カユミに近いくすっぐたいという感覚になりますが、強く触ると圧覚や痛覚しか感じなくなります。実際に表皮のみを除いた皮膚ではカユミは起こりますが、表皮と真皮接合部を取り除くとカユミは起こらなくなります。
 このことから表皮と真皮との間に、カユミの刺激をキャッチする受容体があると推測され、機械的、電気的、化学的、温度などによる刺激を受けると受容体が反応し、その情報が感覚神経を通して大脳皮質に伝達され、「かゆい!」と感じているようですが、その受容体は形態学的にはまだ解明されていませんが、感覚を伝達する神経については次のようなことが分かっています。
 人間の皮膚にはAβ繊維と、C繊維という2種類の神経線維があり、Aβ繊維は触覚や圧覚、C繊維は痛覚や温覚というように知覚の役割を分担していることが分かっています。
 カユミをどこで感じるのかは、まだはっきりと分かっていませんが、鋭い痛みは神経繊維のAβ線維によって伝えられ、鈍い痛みはC線維によって伝えられています。カユミは局所麻酔によって痛みと平行して消えることから、痛みの別の形と考えられ、おそらくC繊維で感じるのだろうと考えられています。
(全理連中央講師 板羽忠徳)

参考資料
■ カユミ回避のために
◎カユミを起こす疾患は湿疹、疥癬、カンジダなどの皮膚病、アレルギー、内分泌異常。腎不全や糖尿病などの全身病など多数ある。 原因疾患の治療とともに抗ヒスタミン剤などの使用や皮膚に対するケアを強力に行う。
◎カユミは、暑さや寒さ、発汗、乾燥などで強くなるため、急激な温度変化を避けたり、乾燥に注意する。
暖めるとかゆくなり、冷やすと治まることが多い ことから、部分的な場合は氷などで冷やしたり、全身の場合はエアコンで室温を下げる。
◎カユミはそこに注意を向けるとなおさら激しくなるため、 カユミに対する注意をそらすような工夫が必要 である。掻くことにより、皮膚の神経の興奮が高まりカユミが強くなるので、また掻くという悪循環を繰り返し、皮膚が傷ついたり、そこから感染を起こすこともあるので注意。
◎カユミは体に対する警戒信号の一つで、痛みよりも重要でないためか、痛みが生じた時はカユミは消えるので、叩いたり、爪で押さえたりして痛覚を刺激する。
◎カユミが治りにくい場合は刺激の強い香辛料やアルコールの取り過ぎにも注意が必要。
◎無用な刺激が皮膚に加わらないようなライフスタイルを工夫したり、皮膚に加わった刺激を炎症やかゆみをひき起こす前に排除する。清潔を中心としたスキンケアを行う。

■ かゆみ防止処置
@スキャルプ・チェック
理美容の範囲で対処できる炎症やフケをともなったカユミかどうかをチェックする。
Aシャンプー
フケ・カユミ用や殺菌剤などの配合されている(ジンクピリチオン、 ピロクトンオラミン、硫黄、硫化 セレンなど)シャンプー剤を用い 、丁寧なマッサージ・シャンプーをする。炎症がある場合はアミノ酸系などの低刺激性のシャンプー剤を用いる。
Bリンシング
 酸性リンス剤でリンシングを行う。
Cタオル・ドライイング
頭皮をこすりすぎないよう注意し、タオルドライして水気をとる。
Dトリートメント剤塗布
 抗ヒスタミン剤(ジフェンヒドラミンなど)配合のトリートメント剤を塗布する。
Eマッサージ
 スキャルプ・マニピュレーションを行う。充分にマッサージする。
Fスチーミング
 ヘア・スチーマーに10〜15分入れ、トリートメント剤の浸透をはかる。
Gリンシング
 軽く洗い流す。
Hタオルドライ
 タオル・ドライイングし、フケ・ カユミ止め剤配合のヘア・トニック(塩化ベンザルコニウム、塩酸クロルヘキシジン、臭化アルキルイソキノリニウムなど)塗布し、軽くマニピュレーションを行う。

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