第44回 生まれつき髪が少ないのですが、増やせますか?
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質問 生まれつき髪が少ない為、一般的な人々のように髪がある経験をしたことがありません。その為自分自身の人生に納得いかず、日々精神的に考え、悩み、辛いです。髪の毛の多い少ないはどうして決まるのでしょうか。 (群馬県 Y・M英 22歳)
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回答 毛髪は皮膚が変化してできますが、最初にその形態変化が起こるのは、ヒトでは受精後2か月前後に頭部から始まり4、5カ月頃までに頭部以外にも発生し、胎児の体表には500〜600万個の毛包が作られます。(過去には体全体の毛は130〜140万本と言われていましたが、今はもっと多いと考えられています。Szabo,G.) この時期を過ぎるとその後に於いては新たに毛包が形成されることはなく、
出生後に身体がいかに大きくなったとしても毛包の数は、一生涯を通じて増えもしなければ、怪我や火傷などを除いて減りもしないのです。
毛包が形成されるのは、受精後60日前後の表皮に「プラコード」と言われる表皮の肥厚が形成され、その直下の真皮に「真皮集塊」という細胞の固まりが形成されることから始まります。 その後プラコードと真皮集塊が相互作用して毛包を形成していくのですが、この毛の位置を決めていくものは何かというと、まだ良く分からないのですが、次のように考えられています。 私たちの体全体のどこに何ができるかという位置関係をマクロに決めている遺伝子として「ホメオボックス遺伝子群」というのがあり、この遺伝子群はよく似た数多くの遺伝子がファミリーを形成していて、個々の遺伝子がそれぞれ違った場所で発現して位置が決まってくるのですが、毛の位置を決めているであろうホメオボックス遺伝子はまだ見つかっていないのが現状です。
なぜ毛と毛の間が一定でもなく、重なりもせず、ランダムの間隔をあけて毛包がつくられてくるというメカニズムは、まだはっきりしていません
が、ショウジョウバエの神経細胞の分化過程の研究などから、「側方抑制」という制御メカニズムが働いているのではないかと考えられています。 最初にプラコードができると、その周囲の細胞にはプラコードになってはならないという禁止信号が出ていて、その信号が弱まったところに新たにプラコードが出来るということを繰り返しているのではないかと考えられているのです。 この禁止信号が強い場合は毛と毛の間が空いてしまい、弱いと密になると考えられ、これが生まれつきの毛量になると考えられます。 この説は体毛のように通常毛包1個に1本ずつ毛が生えている部分には当てはまりますが、頭毛のように1個の毛穴に数個の毛包があって数本の毛が生えて毛群を形成しているような場合は、別のメカニズムも働いているのかも知れません。 (全理連名誉講師 板羽忠徳)
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参考資料 ●毛髪培養の実用化は? 毛髪は皮膚が変化した組織である毛包から作られます。この毛包は表皮性細胞と真皮性の細胞からつくられ、真皮性細胞である毛乳頭細胞の命令により、表皮性細胞が変化して毛包が形成されることから、毛乳頭細胞を皮膚に移植すると、毛髪を再生することができるとして、
毛包誘導能を維持した毛乳頭細胞を大量に得る培養法が確立されています。
毛根部の毛乳頭細胞を取り出し、0.1mmほどの毛乳頭に集まる細胞を培養液に浸し、約25000倍に増やし、薄くなった部位へ移植するというものです。 毛乳頭は約1000個の細胞からできていますが、まず、50本の毛髪から毛乳頭を分離し、1000億個以上に増殖させ、これを移植すれば300人以上をフサフサすることが可能というもので、体外で培養して増殖させた患者さん本人の毛乳頭細胞を皮膚に自家移植して、毛髪を再生する技術の実用化に向けて研究されています。 「タモリの未来予測」(2004年2月21日 フジテレビで放送)では、広島毛髪再生プロジェクトの豊島公栄博士、聖マリアンナ医科大学の大島秀男博士が紹介され、毛乳頭と毛包幹細胞をセットにして植えることで、マウスの背中に毛を生やしたことを紹介し、頭髪再生の実用化は2010年頃と予想していました。 基礎実験が終わり、毛乳頭の培養は実用化されていますが、まだ頭髪再生として実用化されているといった段階ではありませんが、
将来的には自毛植毛に替わる頭髪再生治療法として大いに期待できます。
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