第54回 毛髪培養による再生の可能性について教えて・・・

質問
以前にテレビの番組で、培養による毛髪再生が夢ではなくなるようなことを言っていましたが、実用化はいつ頃になるのでしょうか?実用化されたら育毛は必要ない時代になるのでしょうか・・。
(山梨県 S.S次 40代)


回答
2003年の「タモリの未来予測TV」の放送では2011年に実用化ということでしたが、翌年の放送では毛包幹細胞と毛乳頭細胞を一緒にして植え込むことにより、発毛率が一歩進み、2010年には実用化できるであろう・・・という内容でした。
表皮幹細胞は表皮、毛包、脂腺などに分化することができますが、毛包は表皮幹細胞が毛乳頭細胞から複雑なシグナルを受けて形成されることが分かってきたことにより、簡単なものではありませんが「人体の中で行われている自然の摂理を、科学の力で忠実に再現していく」という考え方で、再生医療が色々な機関で研究されるようになってきました。
2001年には広島大学の吉里勝利教授らの研究チームが、毛乳頭を分離して腕の表皮に9カ所移植し、1ヶ所から体毛と違う毛が1本生え、50日で約1cmに伸びたことを日本組織培養学会で発表し、毛髪再生技術として5年後の実用化を目指すとしていましたが、すでに5年目に入っており、実験的にはマウスなどを使った研究は進み、一部では成功しているのでがまだ基礎的な段階であって人体頭皮への実用化には至っていないのが現状です。
皮膚の再生は歯の「親知らず」を抜いたときに付着している歯肉の組織を培養することにより、すでに重度な火傷やアフリカの風土病による皮膚再生などに実用化されていますが、毛の生えた皮膚の再生にはまだ至っていないのです。
毛髪の発生・再生については体内で複雑な遺伝子や酵素、ホルモンなどが働いており、毛髪をいろいろコントロールしている分子シグナルについても最近はWnt、Shh、FGF、noggin、BMP、Lef-1、その他複数のシグナル伝達系の働きが分かってきましたが、まだ未知のものも多くこれからの更なる研究に期待したいところです。
毛乳頭細胞を培養して再生する場合は、自毛植毛のように後頭部に手術による傷が残らない点や、培養に必要な採取する毛髪の数は5、6本で可能というメリットは大いにありますが、培養された細胞は寿命が短いと言われていることや、安全性の面で細胞のガン化等の心配も懸念されることや、マウスのように毛の成長と休止が一斉に繰り返すのと違い、人間の場合は毛周期がモザイクパターン(ランダム)で行われることから、複雑な治療が必要になってくることが実用化を遅れさせている原因になっているようです。
実用化されたとしても、育毛は続くものと思います。なぜなら医学は治療だけでなく予防医学も大切なことで、治療のための費用が非常に高額になることや、時間的にもかかることから、若い頃のハゲない状態でいたいという願いや予防は永遠に続くということになります。
(全理連名誉講師 板羽忠徳)

参考資料
●幹細胞とは
役割がすでに決まっている体細胞とは異なり、 まだこれからいろいろな細胞に分化する能力や、まだ何度も分裂を繰り返して増殖する能力を維持している未分化な細胞 のことで、幹細胞には大きく分けると、成体にはありませんが、胚の中にあり、身体のあらゆる細胞になる能力を持っている胚性幹細胞(ES細胞)と、成体の中にある成体幹細胞があります。
成体幹細胞は体のさまざまな部分に点在し、ある一定の領域の細胞になりうるもので、上皮幹細胞、造血幹細胞、神経幹細胞、色素幹細胞などがあり、古くなった細胞や、病気や怪我などで欠損した細胞を補給しています。
幹細胞は再生医療においてはその治療のもとになる重要な細胞です。

●再生医療とは
幹細胞を最大限に利用することによって、新たな組織や器官を細胞から作ったり、損傷したり機能の落ちた組織や器官を修復しようとする医学的な試み で、心筋梗塞、脳梗塞、肝硬変、腎不全、血管性病変、白血病、関節炎、熱傷などいろいろな研究が進められています。
再生医療によって、これまで治療が難しかった疾患に対しての治療が可能になるのではないかと大きな期待が寄せられています。
毛髪の再生においても、毛包形成や維持に重要なヒト毛乳頭細胞を実験動物に移植して発毛させることに成功していることと、発毛機能を維持したヒト毛乳頭細胞を大量に培養増殖できるようになったことから、バルジ(膨隆部)にある幹細胞と毛乳頭細胞の移植による脱毛症治療の可能性が示されるようになってきました。

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